こんにちは。いつもお世話になっております。青沼隆宏です。
あおぬま通信第122号をお送りします。読みづらい部分もあるかもしれませんが、ご容赦ください。
1月28日、東京都中小企業振興公社からの依頼でPMIセミナーの講師を務めました。
PMIとは「ポスト・マージャー・インテグレーション(Post-Merger Integration)」の略で、企業買収後に行う統合プロセスを指します。目的は、両社の組織・業務・文化をスムーズに統合し、シナジー効果を最大化することです。
僕が講師に選ばれたのは、中小企業のM&Aを数多く手掛けてきたことが理由かと思います。
中小企業のM&Aでは、契約が成立するまで被M&A企業の従業員には交渉の事実を伏せて進めることがほとんどです(私の経験でもこのパターンが大半を占めます)。これは、交渉が決裂した際に被M&A企業の信用が失墜するのを防ぐためです。特に情報漏洩のリスクが最も高いのは従業員からであり、その点が考慮されています。

したがって、PMIを検討しようにも、弊社の場合は仲介会社や交渉相手(オーナー)から入手した情報をもとに自分たちで考えるしかありません。本来であれば、キーパーソンとなる従業員とともに検討したいところですが、M&A成立前に会うのは難しいのが実情です。
また、中小企業では「キーパーソン」といっても、技術的に優れている人や、長年勤めることで取引先との特別な関係を築いている人が多く、経営的な視野を持っている人材は少ないのが現実です。弊社が対象とする小規模製造業では、経営者は社長一人、残りの従業員は皆技術者というケースが多く、場合によっては社長も現場に出ており、経営をほとんど行っていないことすらあります。
最近では、ワイエム・スチールをM&Aし、スズキ工業所と合併させました。
両社の企業風土には大きな違いがありましたが、それでもM&Aを決断したのは、次のような理由からです。
- 技術者の確保
- 新たな顧客・取引先の確保
- ワイエム・スチールが持つ広い工場を活かした業務効率化
- 組織のサイズを大きくすることによる効率化
- 新たな安定利益の創出による技術・ノウハウの次世代への継承
結果として、キーパーソンの1名が退職するという大きな出来事がありましたが、それを除けば概ね良い方向へ向かっていると感じています。
一方で、想定外だったのは、「通勤が遠くなる」という理由から工場の統合が実現しなかったことです。
「そんな理由で……?」と思う方もいるかもしれませんが、実際に通う従業員にとっては、僕が想定していた以上に大きな問題だったのだと思います。結果的に、札幌工場と石狩工場の両方を運営することになりました。

PMIという格好の良い言葉を使っても、実際には泥臭い作業(毎月の面談、5S活動など)を地道に続けながら進めていくしかありません。計画を理解してもらうことが理想ですが、「理解」を前提にしてしまうと、「理解できないこと=やらなくてもいいこと」となってしまう恐れがあります。計画のすべてが理解されるわけではないため、極力「理解」されるよう努力はしますが、ときには「理解」されなくても進めるべきことがあるのも事実です。
また、「仕事」の定義が異なることもあります。特に、製造業の現場で働く従業員は、実際にモノを作ることを「仕事」と定義しがちですが、「面談」「ミーティング」「5S活動」など、すぐに成果が見えないものは「仕事」と捉えない傾向があるように思います。しかし、経営者の視点では、「すぐに成果が出ること」よりも「長期的な成長につながること」の方が数倍重要です。短期的な成果は従業員に任せられますが、長期的な成長に必要な施策を「今」行うことこそが、経営者の仕事だからです。これを実践できるようになれば、組織は一段上のレベルに達することができるはずです。
例えば、「5S活動」のように、未然に事故を防ぐ、無駄をなくして効率を上げるといった「将来のために今やるべきこと」は、理解されにくいものの代表例でしょう。
また、先代や従業員が期待する「社長像」と自分との差があるのは当然のことです。特に、先代が創業者である場合、カリスマ性があり、現場のことも熟知しているため、比較対象としては非常にハードルが高くなります。
私自身、何社もM&Aを経験するうちに、そうした従業員からの評価の目には慣れ、粛々と計画を進めることができるようになりました。しかし、従業員は往々にして「社長は○○ができないから、○○を理解できない」と考えがちです。ただ、経験を積めば8割方のことは理解できますし、あまり細かいことを追求しすぎると時間がいくらあっても足りません。経営者の仕事は、俯瞰して会社や社会の未来を見据えながら、計画を立てて進めることなのです。また現場の仕事は現場の従業員に任せる事がベストです。
長々と書いてしまいましたが、中小企業のM&Aは、属人的であるがゆえに「退職=技術・ノウハウの喪失」につながることが多々あり、大きなリスクがあります。逆に言えば、中小企業であっても仕組み化されている会社であれば、その分だけリスクは下がります。
対象企業が昔からよく知る同業者や取引先であるといった特殊な条件がない限り、M&Aの道は決して楽ではありません。
厚かましさを持ち、泥臭い作業をこなしながら、最悪のケースも想定して進めるだけの覚悟がなければ(相当の苦労も伴います)、決しておすすめはできません。
この話は、中小企業振興公社のセミナーでは話さなかった部分です(当然ですね)。
ここだけの話として、「日刊面白半分」の読者にだけお伝えしました。
コメント欄
コメント一覧