今回は東京で行っている真空成形の金型と成形の素材であるアルミニウムと樹脂(プラスチック)のお話をしたいと思います。
真空成型用金型の作り方は、トレー図面から金型設計を行い、加工データを作成してアルミニウムを切削する方法と、原型を製作して砂型鋳造(原型を砂で固めて、原型を取り出し原型同様の空間を作り、そこに溶かしたアルミニウム等を流し込んで作る方法)する方法があります。
アルミニウムの特徴は軽く、融点(液状化する温度)が低く(660℃程度。鉄は1500℃程度。ちなみに家庭用ガスコンロの炎は1700℃程度です)、熱伝導率が高い金属です。
真空成形用金型に使用されている理由は、真空成形による金型に対するストレスが大気圧以上かからないため(素材に鉄ほどの丈夫さが必要ない)、軽くて(密度が低い)加工しやすい(加工コストが安くなる)素材の方が短納期でコストも安くすむからです。
切削する場合、例えば10個の同形状の金型を切削すると1個目と10個目では厳密に言えば形状は異なります。
それは切削に使用する刃物が段々と摩耗してくることによって削り取っていく量が少しずつ変わってくるからです。この精度を保とうとすると毎回新品の刃物に付け替えて使用しなければなりません。
鋳物金型の場合は、溶かしたアルミ等を流し込みますので冷えて固まっていく過程で流し込まれた素材が収縮(基本的に素材は熱すれば膨張し冷やせば収縮します)するため、形状的に厚みのある所ほど収縮する量は大きく精度は落ちます。
そのコントロールが必要なのですが、真空成形の場合は先ほど書いたようにもともと精度を求めるのが難しい成形方法なので鋳物金型にもそこまでの精度は求めません(今では鋳物金型は切削で表現出来ない形状以外で使う事はまれになりました)。
通常、真空成形は精度を求める形状には向いていません。
大きくは3つの理由によります。
真空成形が精度を求められる形状に向いていない3つの理由
真空成型はシート状のPet(ポリエチレンテレフタレート)、PS(ポリスチレン)やPP(ポリプロピレン)といった熱可塑性樹脂(熱を加えると溶解し、冷えると固化する特性を持つ樹脂)素材の特性を利用していて、成形前に加熱し溶解する前の柔らかくなった状態の樹脂を、真空状態を作る事によって金型の形状なりにシートを伸ばして成形する方法です。
一つ目の理由は、
素材を伸ばしているため成形前と成形後で必ずシート厚が薄くなることです。形状が原因で一律に薄くなる訳ではないために、実はどこの場所がどの程度薄くなるかについては正確には分かりません。
二つ目の理由は、成形後に樹脂が冷却していく過程で収縮することです。各素材はある一定の割合(Petは4/1000前後、PSは5/1000前後、PPは15/1000前後)で収縮しますが、形状の影響やシートの縦方向・横方向に影響されます。
三つ目の理由は、素材の性質による違いで歪が変わることです。素材や厚みによって加熱時間が変わりますが、加熱時間が長くなると冷却時間も長くなります。冷却時間が長くなると収縮時の歪も大きくなります。
例えばPSは融点が100℃程度ですが、PPは170℃程度です。そのためPPはPSと比較すれば加熱時間も長く冷却時間も長くなります。従ってPPはPSに比較すると歪が大きくなり気を付けなければなりません。
真空成型は比較的シンプルな成形方法だと思いますが、それでも金型の素材や製造方法、熱可塑性樹脂の特徴であるシート厚のばらつき・収縮のばらつき等の影響を受け、これらを加味した金型の設計を行ったとしてもトレー設計上の形状を正確に再現することは非常に難しいというのが現状です。
シンプルだけど難しいですが、そこが面白いと感じる部分でもあります。
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